羊が家畜化されたのは古く、一説では中石器時代の中央アジアにはじまるといわれます。以来、サバンナ地帯やステップ草原、地中海地域やヨーロッパ、砂漠の周縁部など、世界各地で放牧飼育されてきました。
『新漢語林』によれば、“羊”と“食”を組み合わせた「養」の字義は「羊を食器に盛る・供えるの意味から、やしなう」とあり、“羊”と“大”を組み合わせた「美」の字義は「大きくて立派な羊の意味から、うまい、美しい」とあります。古代中国において、天子が土地の神、五穀の神を祀るときには、特別の供物として牛・羊・豚が捧げられました。この三種の供物を大牢(たいろう)といい、転じて最高のご馳走という意味でも使われます。中でも羊は、「祥」の字が示すように、神に供えて吉凶のきざしを占う際に用いられる重要な家畜でした。
同じように、ユダヤ・キリスト教世界やイスラム世界においても、羊は美味なご馳走であり、神々に供えることのできる神聖な家畜でした。
『創世記』22章では、アブラハムが神への誠心を示すために、愛児イサクを生贄として捧げようとします。祭壇を築いてその上にイサクを縛り、まさに殺そうとしたそのときに、神が用意した身代わりの生贄が1頭の雄羊でした。
イスラム法が定める神への最善の供物は、生後1年以上を経た健康な雄羊です。そのため、メッカ巡礼や祈願成就の折りには好んで羊が捧げられ、巡礼月に行われるイスラムの二大祭のひとつ犠牲祭では捧げた羊を3等分し、家族・貧困親族・貧困家庭に配分することが善行とされています。
肉や乳は美味なる食糧となり、毛は温かい繊維となり、柔らかい皮は古くは紙の代わりとなり、糞は貴重な燃料ともなるこの穏やかな草食動物は、数千年もの昔から世界中で多くの人々を養い、人々の信仰を支えてもきたのです。
「未」vol.2 世界を養う最高のご馳走
2015.1.5 干支コラム