平安時代の末から鎌倉時代初頭にかけて、貴族社会から武家社会へと大きく変貌を遂げた時代を生きた僧侶・慈円は、次のような歌を詠んでいます。
極楽へまだわが心行きつかず
羊のあゆみしばしとどまれ
羊が屠所(としよ)へとひかれ黙々と歩むように、人もまた死に向かって日々を生きています。たとえわが魂がいまだ極楽へ往生するまでに至っていなくても、刻々と死に近づいていく羊の歩みは、決してとどまることはありません。
「未」の文字は、木の枝がまだ伸びきらない状態をかたどった象形文字で、「いまだ…していない」の意を表します。いまだ知らぬこと、まだ来ていない時代、まだ熟していないこと、まだ完成していないもの—「未知」や「未来」、「未熟」や「未完」の物事を、この先良くするのも悪くするのも、この一年の、今この時が勝負です。
いまだ伸びきっていない木をやがて大きく枝を広げる大樹とするために、羊のごとく穏やかに、されど内には熱い闘志をたぎらせつつ、一歩また一歩と着実に歩み続けたいものです。
(vol.1~vol.5文/坂上雅子)
「未」vol.5 未来を見つめ、大樹を育まん
2015.1.27 干支コラム