コラム

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「酉」vol.1 太陽を飛び戻す「五徳」の鳥

2017.3.21  干支コラム 

 人が理想とする「文・武・勇・仁・信」の五つの徳。中国では、鶏はこの五徳を備える鳥といわれます。
 出典は前漢の韓嬰(かんえい)が著した『韓詩外伝』。すなわち、頭に文官の冠をいただき(文)、足に蹴爪を持ち(武)、ひとたび戦えば敵前から一歩も引かず(勇)、餌を見つければ「コッコッ」と鳴いて仲間に知らせ(仁)、時間を正確に守って夜明けを告げる(信)。そんな鶏の姿や性質を五徳と讃えたのです。
 日本では『古事記』や『日本書紀』の天岩戸伝説に、「常世の長鳴鳥」という名で鶏が登場します。天照大神が天の岩戸に隠れ、世界が闇に閉ざされたとき、神々が常世の長鵈鳥を集めて鳴かせ、アメノウズメノミコトに舞い踊らせて太陽神の天照大神を誘い出すことに成功します。
 鶏が太陽を呼び戻す神話は中国にも見られ、古代エジプトや古代ペルシャ、さらに中世ヨーロッパにおいても、鶏は太陽の象徴とされました。十六世紀のイギリスの劇作家シェイクスピアは、『ハムレット』の冒頭部分に次のように書いています。
 「聞くところによれば、夜明けを告げる喇叭(らっぱ)手の雄鶏は、その張り上げた甲高い鳴き声で日の神を目覚めさせ、そして鶏鳴の警告を聞くや、海のなか、火のなか、地下、空中いずれであれ、無明をさまよう霊たちは、それぞれに定められたおのが領分へと急ぎ戻るという」(岩波書店野島秀勝訳)
 洋の東西を問わず、その鳴き声で夜明けを告げる鶏は、悪霊が闊歩する暗黒の世界を太陽の光のもとへと導く霊鳥と信じられていたのでした。